私は、このコラムの中で2回ほど、子ども達にインターネットを利用させることの危うさ、大人が子どもにインターネットを含めた情報環境をどのように与えるべきか、について書いて参りました。今回、約1年半ぶりのコラム執筆となりますが、ここ最近の事情が1年半前とは大きく異なり、かつ私個人にはかなりの危険な水準に達していると映るため、今回のコラムでも、この話題につき触れてみたいと思います。
ごく最近、私の外来で実際にあった相談です。あるお母さんから、「高校2年生になる娘が、食事を終わるまでに3時間かかっている。毎日夕食がこのようになっている。どうしたらよいであろうか」という内容の相談を受けました。皆様はこの娘さんの夕食の状況を想像できますでしょうか?3時間かかる原因は、スマートフォン(以下、スマホ)を片手に食事をしていることにありました。このお母さんが何度注意しても、その娘さんは一向に止める気配がなく、お母さんもほとほと困り果てているという状態でした。ここまで極端なケースばかりではないでしょうが、「スマホ片手に〜をする」は、いまやごく日常的な風景になっていると思われます。
昨年、警視庁が東京都内の中高生を対象にした携帯電話の利用状況に関するアンケート調査結果を発表しております。(平成25年11月29日発表。調査は平成25年7月1日~20日、東京都内の中学・高校に通う2.3年生を対象に行い、4249人が回答)。それによりますと、携帯電話を持つ中学生の割合は82%、高校生は98%、回答者全体のうちスマホの保有率は高校生が74%、中学生が42%でした。中学生には一昨年7月にも同様の調査をしており、スマホの保有率は23%からほぼ倍増しております。このように、携帯電話、スマホは、もはや子どもたちのコミュニケーションツールとしてはあって当たり前という状況になりつつあります。しかし、同調査で注目すべき点は、携帯電話を持つ生徒の72%に携帯に依存する傾向があること、「高依存」と判定された生徒の82%がスマホ利用者であったことにあります。そうなのです。スマホの登場により、子どもたちのネットワークへの依存後は、それまでと比べものにならないほどに強度になってしまっているのです。このことは、私の臨床での実感に一致しております。
薬物依存では、「精神依存」という状態が形成されます。精神依存の状態では、薬物に対する強烈な摂取欲求が生じます。精神依存状態で生じる薬物に対する摂取欲求を「渇望」といい,これが原因となって薬物の使用を容易にやめることができなくなります。スマホはどうでしょうか?子どもたちは、スマホに渇望を生じる状態にはなっていないでしょうか?我々大人は、便利さや子どもが欲しがる、周囲が利用しているからという理由で、子どもがスマホに依存する環境を作ってしまっているのではないでしょうか。私が最近危惧している状況です。皆様なら、子どもがスマホを欲しいと言い出したらどうされますか。大人がそれぞれの考えをしっかり持って子どもたちに対応しなければならない問題であると考えております。