報告義務のある労働者50名以上の事業場の定期健康診断結果による有所見者率は、年々増加し、平成13年は前年を1.2%上回る45%となっている。
とりわけ、生活習慣病に関する肝機能検査、血中脂質検査、血圧などの有所見者が増加している。しかし、50名未満の事業場では、労働者の健康診断結果及び事後措置の報告義務が求められていないためにその実態が把握されていない。一方、小規模事業場の産業保健活動拠点として地域産業保健センターが行っている有所見者などを対象とした健康相談窓口の相談件数も少なく、地域センターに対する小規模事業場からの意見・要望も充分把握できていないというのが実状である。このため、報告義務のない小規模事業場の健康管理活動の実態を把握し、新たな切り口で地域産業保健センター活動を活性化させることが強く求められる。
そこで、産業保健サービスの現状と問題点、さらに、今後どのように解決してゆくべきかについて検討すべく、平成5年度に発足した大田原地域産業保健センター管内にある従業員数30〜49人規模の事業場の産業保健の実態について、アンケートによる全数調査を行い、地域産業保健活動を必要とする事業場を掘り起こし、より効率的に地域産業保健サービスを提供したいと考えた。また、このような産業保健サービスが国の経済に寄与するとすれば、国からの公的資金の支援がより容易となり、地域保健センター活動が更に活性化すると考え、今回の研究を行うこととした。
大田原地域産業保健センター管内の従業員数が30〜49名の事業場名簿を整備し、平成14年12月に224ヶ所の事業場に、別紙の調査用紙と着払い返信用封筒とを発送した。宛先不明で返送されたものは15ヶ所であった。返答が少なかったので、未回答の事業場には電話で督促し、計83ヶ所の回答が得られた。従って、最終有効回収率は35%であった。
別途、これら事業場の労働災害発生状況を調べ、労働災害による補償などの支出状況を把握し、これらすべての資料を用いて解析した。
返答のあった83ヶ所の事業場のうち29人以下の事業場が16ヶ所、30〜49人規模の事業場は37ヶ所、50〜99人の事業場が27ヶ所、100人以上の事業場が3ヶ所となっていた。
こうした事業場規模の変化が見られたので、以下に述べるように、規模の大きさと産業保健の現状との関係についての解析も行った。
全事業場の58%が安全衛生担当者を定めていた。事業場規模別の衛生担当者を解析したのが図1であるが、規模別には大きな差は見られなかった。
衛生推進者または衛生管理者は、図2に示したように、50人以下の事業場におかれる衛生推進者も50人未満の事業場では24%、衛生管理者を選任すべき50〜99人の事業場でも29%に過ぎず、規模による差は見られなかった。しかし、事業場の規模が100人以上となっても選任率が極めて少なかったので、労働基準監督署は、中小零細事業場に対して、衛生推進者、衛生管理者を選任するよう、積極的に働きかけてゆく必要があると考えられた。
図3に示したように、衛生委員会または安全衛生委員会の設置が義務づけられていない50人未満の事業場でも30%が衛生委員会が組織されていた。、一方、衛生委員会または安全衛生委員会の設置が義務づけられている50人以上の事業場でも設置率は35%と低率であった。
図4に示したように、衛生委員会の開催頻度は、事業場規模にかかわりなく年間8回程度であった。
図5に示したように、選任義務のない50人未満の事業場でも、こうした調査に返答するほど熱心なためか20%の事業場が産業医を選任していた。選任義務のある50〜99人の事業場では50%、100人以上の事業場では12%と、事業場規模が大きいと選任率が高くなるようであった。
産業医の事業場訪問回数は、返答率が少ないため信頼性は低いが、図6に示したように、50人未満の事業場では年間2〜3回程度、50〜99人の事業場では年間6回であった。
今回調査した事業場の作業の種類についてみてみると、表1に示したように、事務作業が65ヶ所で最も多く、ついで有機溶剤取扱い作業12ヶ所、粉塵作業3ヶ所であった。
30〜99名の事業場では、40%強の事業場が作業環境測定をしていたが、30人未満、100人以上の事業場数は数が少ないので、規模別の違いについては検討しなかった。(図7)。
測定頻度は年2回が半数、年に3回以上測定している事業場もかなり多かった。事業規模による差は明確ではなかった(図8)。 測定費用は30人未満の事業場が年間20万円と高かったが、30人以上の事業場では10万円程度であった。
環境測定機関を選定した理由は、「信頼がおける」が57%、「他からの紹介」が36%、「安価である」は7%と少なく、「安価である」ことが主たる選定理由ではないことが分かった。図10に事業場規模別に検討したところ、30人未満の事業場では「他からの紹介」が多かった。
これまで調査した事業場の26%が作業改善をしたことがあると返答していたが、30〜99人の事業場では作業改善実績のある事業場が多く(44%)、企業規模の大きなほど、作業環境改善に取り組む姿勢が明確であることが分かった(図11)。
16事業場が作業環境の改善をしていたが、改善費用は100万円以下が6ヶ所、100〜500万円未満が2ヶ所、500万円以上が3ヶ所もあった。
作業環境の改善提唱者は、図13に示したように役職者が最も多く13%、次に衛生推進者7%、作業主任者4%、環境測定機関4%であった。
図14にみるように、週休2日制をとっている事業場が最も多く69%にも及んでいた。しかし、土日の週休1日半制が9%、日曜だけ休みの事業場が11%あた。事業場規模別には大きな差はなかった。
残業をしている事務作業者は43%、現場作業者は、46%で、事務作業者週4.6時間と現場作業者は週5.9時間の残業をしており、現場作業者の残業時間がやや長かった。図15に示したように、事務作業者、現場作業者ともに、事業場規模の大きいほど残業時間が長かった。
一般事務が79%、ワープロ・パソコン作業が73%で最も多く、ついで、夜勤が20%、レジスターが17%、重量物挙上が16%であった(図16)。
31%の事業場が作業改善をしていた。企業規模別に見ていると、30〜49人の事業場が60%で最も高率であった(図17)。作業改善の提案者は役職者が10%、作業主任者が23%、作業者が20%と多かった(図188)。作業者の衛生教育をしたのは衛生管理者23%、役職者188%、作業主任者15%、産業医7%、環境測定機関1%であり、皆がそれぞれの役割を担っていた(図19)。
定期健康診断は1年に1回が91%、それ以上が5%であった。しかし、殆どしないも4%と少しではあったがあった(図20)。
定期健康診断実施機関は、巡回の健康診断機関(63%)、一般の診療所・病院(26%)が多かった。事業場規模による健診機関の違いはなかった(図21)。
定期健康診断機関を選定した理由(図22)は、「信頼がおける」30%、「近所まで来てくれるので受診が容易」25%、「他からの紹介」17%で、「安価である」は大きな選定因子とはなっていなかった。
定期健康診断で異常が見いだされた者の割合は8.3%で、事業場規模別に見ると50人未満の事業場の異常率がやや低かった(図23)。小規模事業場ほど健康異常者率が高いのに今回の調査で異常率が低くなっていたは、アンケート調査に積極的に返事をするほど産業保健活動に熱心な事業場であったため、異常率が低かったのではないかと考えている。
定期健康診断で異常の見いだされた作業者の健康管理、健康指導は、作業者自身の主治医に依頼するが30%程度であったが、事業場が積極的に医師を紹介するというところも30%程度あった(図24)。
特殊健康診断を殆どしていない(殆どしないと2年に1回の合計)事業場が44%にも及んでいた。1年に2回の特殊健診を行っている事業場は9ヶ所で、1〜29名、30〜49名、50〜99名の事業場でもそれぞれ30%、28%、50%であった。回答しない事業場が極めておおいので、100名未満の事業場では20%程度の事業場が年2回の特殊健診を従業員に受けさせているに過ぎないと考えられた。
健康診断機関(図26)については、巡回検診機関が最多で、ついで一般の診療所、社会保険病院であった。その他が多かったが、設問が充分でなかったために、産業医に健診を依頼しているのか、または、どのような他機関で受診させているのか不明である。
特殊健診機関を選定した理由は、「他からの紹介」が29%、「信頼がおける」が29%、「近所まで来てくれるので受診が容易である」が21%で、安価であるというのは1事業場だけであった。
平成13年度の特殊健診では、返事をしてくれた事業場からは異常者は1名だけであった(図28)。
もし、異常者が見いだされたら、「作業者の主治医に任せる」が5事業所(6%)で、他は何ら返事がなかった(図29)。
最も多かったのは健康診断の事後措置で23%、ついで健康相談と作業者のストレス解消がそれぞれ19%であった。また、生活習慣病対策18%、メンタルヘルス15%、従業員の健康づくり13%であった。