- 調査研究体制
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松本 兼文: 栃木産業保健推進センター所長
加藤 智一: 栃木産業保健推進センター相談員
新村 昭三: 栃木産業保健推進センター相談員
岡本 佳久: とちぎ健康の森管理センター所長
調査研究結果の概要
1. 事業場及び衛生管理者について
本調査の全体集計からみると、各事業場における衛生管理者(有資格者)数は、事業場毎にほぼ充足されているが、衛生管理者がいないという事業場も13.2%みられた。有資格年数をみると、「10年以上20年未満」の者が26.4%と最も多く、課長職以上の役職者が57.9%を占めており、名目上の衛生管理者が38.0%にのぼっている。実際に衛生管理者の仕事をしている者であっても他の仕事との兼務者が56.4%であり、専任者は5.6%にすぎなかった。また、衛生管理者の職務に対する給与の支給がある事業場はわずか19.0%にすぎず、全体的に事業者の衛生管理者の職務に対する評価の低さがうかがえる。今後、衛生管理者としての職務を充分に果たせる職場の環境づくりと資格手当ての充実への配慮を事業者に期待したい。
2. 衛生管理体制について
衛生(安全衛生)委員会は80.5%の事業場に設置されており、そのうち60.7%の事業場において毎月の定期開催がみられたが、不定期であるが開催しているという事業場22.1%と開催していない17.2%については今後の改善が望まれる。また、委員会の設置及び定期開催には規模によって差異がみられ、特に50人未満の規模の事業場における設置率、定期開催率はともに低い傾向がみられた。衛生管理者の委員会への出席率は83.6%で、事業者が衛生管理者の職務に対し、その重要性を理解し協力してくれるという事業場は74.7%あり、全体では良い傾向を得られたが規模別にみると、50人未満の規模の事業場においては、事業者が全く理解してくれないという事業場が14.7%みられた。
衛生(安全衛生)委員会の設置が義務づけられている50人以上の事業場のうち、「ない」と回答している事業場に対し、行政当局等により衛生委員会を設置するよう指導の強化を期待したい。また、事業主セミナー等の機会を可能な限り設け、事業者や衛生管理者に対する意識啓発を活発に行うべきである
3. 職務について
衛生管理者が1ヶ月に関与する各業務の作業時間をみると、作業環境管理(職場巡回、作業環境測定等)や作業管理(作業方法の点検等)に重点が置かれている状況がみられ、労働衛生教育、健康管理(健康診断、健康づくり等)、総括管理(計画・総括資料の作成等)に関与する時間は5時間以内という事業場が80%以上を占めていた。
近年、各事業場の作業環境が産業の変化により改善されてきている中で、健康管理や労働衛生教育面に、より重点が置かれるべきであり、今後の産業保健推進センターからの強い支援が期待される。
4.健康管理について
定期健康診断は99.3%と高い割合で実施され、所見者に対する事後措置としては、一般病院の受診を勧める事業場が39.1%で最も多くみられた。所見者の事後措置については規模別に差異がみられ、規模が大きくなるにつれ産業医の受診を勧める事業場の比率が高くなる傾向がみられた。小規模事業場の定期健康診断の事後措置は、一般の診療所や病院を利用している傾向にある。
職場における労働者の健康管理体制の充実が叫ばれている中で、今後、産業医と衛生管理者の連携・協力の重要性が増してくるものと考えられ、総合的な健康管理システムの確立が必要と考えられる。
5.労働衛生教育について
雇入れ時や職場変更時における労働衛生教育の実施率は67.3%で、通常時における実施率は「定期的に実施している」と「実施したことがある」を併せて75.9%であった。そのうち定期的に実施されている事業場は28.6%にすぎなかった。企業規模別にみると、規模が大きくなるにつれ、その実施率も高率になる傾向がみられたが、中小規模事業場における未実施率を改善していくことがこれからの大きな課題といえる。また、労働衛生教育の講師は、産業医が39.3%、衛生管理者が36.2%となっており、企業規模別では前述の事後措置と同傾向を示しており、中小規模事業場ほど産業医との関わりが少ないことが推定される。今後は、広報・啓蒙活動を展開しながら、特に中小規模事業場に関しては、事業者や衛生管理担当者の研修等を強化し、支援していくことが重要と考えられる。
6.産業保健推進センターに対する意見・要望
産業保健推進センターに対して充実してほしい事項は、情報の提供(図書、教材等)が47.6%で最も多く、産業保健に関する研修の実施38.9%、事業者に対するセミナーの実施30.2%等、情報や教育面の充実を望んでいる。
本調査を基に、衛生管理者の職務の実態を把握したうえで、事業者を含めて衛生管理者に対しての労働衛生、産業保健に関する情報の伝達、啓蒙活動を推進するとともに、知識、技術の向上を図るため研修等の実施について、産業保健推進センターがより積極的に関与していく必要がある。